④移植後の生活と注意点
1. 日々の管理
体重は毎日量ったほうがいいのでしょうか?
それほど神経質になることはありませんが、できるだけ測定すべきです。肥満は移植腎に大きな影響を与えます。標準体重を維持するためにも定期的に測定してください。
血圧は毎日測定したほうがいいのでしょうか?
来院時の血圧測定では血圧が高めに出ることが多いため、ご自宅で朝食前と就寝前の血圧を毎日測定して記録されることをお勧めします。
腎移植後は、収縮期血圧/拡張期血圧130/80mmHg未満を目標とします。
体温は毎日測ったほうがいいのでしょうか?
毎日測定する必要はありませんが、38度以上の発熱が見られたときは、肺炎などの可能性もあるため自己判断せず、必ず主治医に相談してください。特に移植後6カ月の間は感染症の多い時期ですので注意が必要です。この時期に38度以上の発熱があった場合はすぐに病院で検査を受けてください。
免疫抑制薬を飲み忘れた場合はどうすればいいのでしょうか?
飲み忘れは常に起こりうることです。前述のように飲み忘れを防ぐための工夫が必要です。内服時間はできるだけ一定の間隔が勧められます。しかし、それほど神経質になる必要はありません。通常は食後の内服で問題ありません。2~3時間のずれは問題ないですし、胃カメラなどの検査があり4~5時間ずれる場合でも問題はありません。これは海外旅行の場合などにも言えることです。
例えば、通常朝8時、夕8時に内服している人が朝の薬を飲み忘れた場合、11時に気が付いたのであれば、そのまますぐに内服していただいて問題ありません。また、夜の飲み会などがあるときはいつもより早めに内服して飲み忘れを防ぐなど、飲み忘れ防止の工夫が大切です。
水分はどのくらい摂取すればいいのでしょうか?
これもそれほど神経質になることはありません。夏と冬では汗の出方、呼気からの蒸発量に違いがあります。したがって、季節、室温、乾燥度などで違うため適宜、のどが乾いたら飲水するということでよいと思います。
大体の目標は1日、1~2Lと考えて差し支えないでしょう。もちろん、夏場のゴルフ、サウナなどでは大量の発汗があり、大量に飲水することが必要となります。このような場合は電解質の喪失もあることから電解質を含んだスポーツ飲料がよいでしょう。
2. 食事
移植後の食事ではどのようなことに気を付ければいいのでしょうか?
原則として、とくに食事で気を付けることはありません。透析中に食べられなかったものも食べられるようになります。大いに食事を楽しんでください。 しかし、食べ過ぎはよくありません。食べ過ぎによる肥満が一番の問題です。体重管理には十分注意してください。 また、一部の食品(西洋オトギリソウ、グレープフルーツなど)で免疫抑制薬の血中濃度に影響を与えるものもありますので、注意が必要です。
塩分制限はしたほうがいいのでしょうか?
血圧が130/80mmHg以上の人は必要です。7g/日以下の塩分制限を行うことが有効です。
コレステロールの管理はしたほうがいいのでしょうか?
脂質異常症はよくありません。脂質異常症が心臓や脳血管の病気を引き起こすことはよく知られていますし、腎臓の機能悪化の誘因となることも知られています。コレステロールが高いときには食事の制限は必要ですが、遺伝的に脂質異常症になる人や、閉経後に上昇することも多く、そのような場合は内服管理が必要となります。必ずコレステロール、中性脂肪が適正な値になるように主治医と相談して管理してください。
刺身や生肉は食べてもいいのでしょうか?
腎移植に関しては大丈夫です。ただし、移植後3カ月前後は免疫抑制薬の服用量がやや多いため、控えめにしたほうがよいでしょう。生ものを食べる際には、常に新鮮なものかどうかを確認してください。また、牡蠣などは食後に腹部症状を訴える人もいるため、慎重に食べてください。
腎移植後のたんぱく質制限は必要でしょうか?
基本的には腎機能が正常であれば、あまり気にすることはありません。もちろん、たんぱく質の摂取過剰は腎臓に負荷をかけるため適宜調節が必要となりますが、通常食べる量では大きな問題を起こすことはないと考えて差し支えありません。
大まかな目安として、クレアチニンが2.0㎎/dLを超えたときは、たんぱく質の制限をしたほうがよいでしょう。しかし、この場合もそれほど神経質になることはありません。大まかな目安として…というくらいにお考えください。
飲酒はしてもいいのでしょうか?
原則、問題ありません。しかし、飲みすぎはよくありません。また、糖尿病などがあり、カロリー摂取制限が必要であるときも、アルコールはカロリーが高いため勧められません。
生野菜、果物は食べてもいいのでしょうか?
原則、問題ありません。しかし、食べ過ぎはよくありません。また、糖尿病などがあり、カロリー摂取制限があるときも、果物はカロリーが高いため大量の摂取は勧められません。生野菜は特に問題ありません。
ケーキやお菓子は食べてもいいのでしょうか?
これもまったく問題ありません。しかし、食べ過ぎは太りますのでよくありません。
また、糖尿病などがありカロリー摂取制限があるときも、大量の摂取は勧められません。
3. 運動
運動はしてもいいのでしょうか?
適度な運動は大いに勧められます。腎移植後1カ月もすればゆっくり歩くなどの軽い運動は大丈夫です。
腎機能に問題がなく身体的に問題がない場合は、さまざまな運動が可能です。水泳、散歩、ジョギングなどもよいと思います。ただ、都会の地面はほぼ舗装化されているため、ジョギングなどでは足に負担がかかり過ぎないような工夫が必要です。
どのような運動が適しているのでしょうか?
運動の種類に特に制限はありませんが、水泳などの運動は酸素消費量も多くよい運動です。
ただし、トライアスロンなどのような極端に負荷のかかる運動はあまりお勧めしておりません。
4. 妊娠、出産
移植後いつごろから、どのような状態になれば妊娠できるのでしょうか?
これは女性にとって非常に大きな問題です。通常の条件としては腎移植後1年経ち、免疫抑制薬の量が一定となること、拒絶反応がないこと、腎機能が安定していて、できるならばクレアチニン・クレアランスで50mL/min以上あることが望ましい条件です。
しかし、必ずしもこれらの条件をクリアしていない場合もあります。その時は主治医によく相談してください。十分にリスクについても話し合いをしておくべきです。
このような場合、妊娠出産に伴う腎機能悪化に対する危険度と出産の希望をよく聞き、患者さんの希望通りにするように最大限努力しています。やはり、出産は女性にとって人生のなかでも最も大きな出来事の一つであり、それなりのリスクがあっても可能な限りトライすることは非常に意味のあることであると思います。したがって、たとえ腎機能の悪化が懸念される場合であっても、出産の希望が強ければ妊娠、出産を可能な限り許可し、元気な赤ちゃんを産むことができるようにサポートするようにしています。
妊娠しても移植腎への影響は無いのでしょうか?
原則として問題はありません。しかし、もともと移植腎に問題があったときには妊娠、出産後に腎機能の悪化が起こることもあります。前述の妊娠の条件を満たしていれば概ね問題を起こすことはありませんが、条件が悪い場合はそれなりのリスクが出てきます。
生まれてくる子どもへの影響は無いのでしょうか?
基本的には大丈夫です。免疫抑制薬や他の降圧薬などで変更や中止が必要となる薬もありますが、きちんとした管理をしていれば多くの場合問題ありません。もし、妊娠を希望する場合や、予期せず妊娠した時などは速やかに主治医に相談してください。
もちろん腎移植患者さんの出産に際して先天奇形の発生が全くないわけではありませんが、その頻度は基本的には健常者とほぼ同程度であると考えられています。
子どもがほしいときはどうすればいいのでしょうか?(男性移植者)
問題ありません。そのままお願いしております。
5. ペット
ペットは飼ってもいいのでしょうか?どのようなペットは飼ってはいけないのでしょうか?
基本的にペットを飼うことは問題ありません。
ただし、鳥類は多くの場合、健常者にも感染するような様々な感染症を持っていることから、ペットとしての飼育は勧めていません。
6. 他科で処方される薬
抗菌薬で内服できないものはありますか?
抗菌薬については多くの場合、内服は可能です。しかし、一部の抗菌薬は免疫抑制薬、特にシクロスポリン、タクロリムスでは血中濃度に影響があることが知られており注意が必要です。
通常セフェム系、ペニシリン系は大丈夫ですが、マクロライド系は血中濃度を上昇させることが多く注意が必要です。主治医に相談しましょう。
7. 旅行
海外で行ってはいけないところはありますか?
原則特にありませんので透析中には楽しめなかった海外旅行を大いに楽しんでください。
ただし、熱帯地方はマラリアなどをはじめとした感染症が多いため、多少注意が必要です。このような感染症の流行がある地域への旅行は避けたほうがよいのですが、仕事などでどうしても行く必要があるときは、食事や蚊をはじめとした虫刺されには注意してください。また、黄熱がある地方ではワクチンなしでは入国を断られます。もし、将来アフリカに渡航する可能性があるようなら移植前に黄熱病ワクチンを接種しておくことをお勧めします。また、渡航前には主治医に相談しましょう。